東京高等裁判所 昭和33年(ツ)127号 判決
土地の所有者が賃貸中の土地を他人に譲渡した場合において譲受人たる新所有者が賃借人に対し旧所有者の権利義務を承継すべきことを約したときは旧所有者の介入を要せずして爾後新所有者と賃借人との間において同一内容を有する賃貸借が存続すべきものと解するを相当とする。(大審院第三民事部大正四年四月二十四日判決、判決録第二十一輯第一巻五八二頁参照)
もとより賃貸人は賃借人に対し賃貸の目的たる或る物の使用収益をなさしむべき債務を負担する反面、これが対価として契約により定まつた賃料を請求し得べき債権を有するものであるから、かかる双務契約から発生する債権債務を伴う賃貸人として有する一切の法律上の地位を新所有者に包括的に承継せしめ、これと賃借人との間に従前の賃貸借の全般的承継関係を発生せしめるためには賃貸人即ち旧所有者と新土地取得者との間に土地取得者を以て賃貸人の地位に代らしめる合意があつて、賃借人がその更替を承認し、即ち三者の合意によつてこの目的を達成することは最善の方法たるを失わないこと勿論である。しかし旧所有者が介入しない場合でも土地の新取得者が賃借人に対し従前の賃貸借の承継を約するは、これを義務の方面から観察すれば債権者たる賃借人に対し義務の引受をなすものに外ならず。而して債務の引受は債務の移転を目的とする債権者及び新債務者の契約であつて旧債務者の介入はその要件ではない。更にこれを権利の面から観察するに新取得者が右賃貸借の承継を約した時までに既に賃貸人たる旧所有者に発生した権利(例えば延滞賃料債権、解除権等)については旧所有者と新取得者との間に合意がない限りこれが移転の効力を生ぜしめるに由ないところであるけれども、爾後発生すべき賃貸人としての権利即ち将来の賃料債権等の如きものについてはもとより旧所有者の介入を要せずして債務者たる賃借人と新取得者との間の合意だけでこれを発生せしめる何の妨げもないと解すべきは当然である。
かように考えてくると賃貸土地の旧所有者と新取得者との間に従前の賃貸借上の権利義務を包括的に承継せしめる合意がない場合でも、新取得者が賃借人に対し従前の賃貸借関係を承権すべき旨を約したときは、旧所有者の介入を要せずして爾後新取得者と賃借人との間において同一内容を有する賃貸借が存続するという前示結論に到達せざるを得ない。
(柳川 坂本 中村)